「和漢百物語」は日本と中国の妖怪話や奇譚を題材にした芳年初期の代表作です。
芳年27歳、慶応元年(1865)の発行で師・歌川国芳から継承した勇壮な武者絵の表現に加え、歴史画に学んだ独自のアプローチも盛り込まれています。のちに流行を博した「ちみどろ絵」へと繋がる残酷描写も見られ、芳年作品の醍醐味を味わえるシリーズとなっています。
「和漢百物語」は全26図からなりますが、今回買取させて頂いたのはそのうちの12図。数回に分けてそれぞれの作品を見ていきたいと思います。
伊賀局(いがのつぼね、?〜1384年)は後醍醐天皇の寵妃であった新待賢門院(しんたいけんもんいん)に女官として使えた人物です。室町時代の説話集『吉野拾遺』に登場しそこでは「勇女」つまり怪力の持ち主として描かれています。またその『吉野拾遺』第八話「 伊賀局化物ニ遭フ事」では、南朝に使えた武士である藤原基任の幽霊と遭遇するという話があり、本作品の題材となっています。
後醍醐天皇が崩御し、後村上天皇が再び吉野の行宮に移った際に新待賢門院も同行し、伊賀局もお供をしたが、化け物が出るということで人々が騒いでいました。実はこの幽霊は伊賀局と同じく新待賢門院に仕えた人物でしたが、死後に弔ってもらえなかったということで化けて出たとのこと。伊賀局はその訴えを聞き届けそれ以後幽霊は姿を表さなくなったそうです。
本作で注目すべきは伊賀局の余裕の表情でしょうか。幽霊を目の前にしても全くたじろいでいる様子が見られません。くつろいだ美女と言った趣で艶めかしさもあります。
<詞書>
『局は篠塚伊賀守の嬢にて吉野の皇居に仕官たる大力の婦人なりある夏の夜庭上に妖のもの局を呼故何者ぞと問ふ妖者答て自ハ藤原の仲成也門院に恨有者也とさあらバ能に計らひ得させん立ち去れよといへバ姿ハ消て失にける』
約37cm *25cm
裏打、欠損、シミあり
売切