「和漢百物語」は日本と中国の妖怪話や奇譚を題材にした芳年初期の代表作です。
芳年27歳、慶応元年(1865)の発行で師・歌川国芳から継承した勇壮な武者絵の表現に加え、歴史画に学んだ独自のアプローチも盛り込まれています。のちに流行を博した「ちみどろ絵」へと繋がる残酷描写も見られ、芳年作品の醍醐味を味わえるシリーズとなっています。
「和漢百物語」は全26図からなりますが、今回買取させて頂いたのはそのうちの12図。数回に分けてそれぞれの作品を見ていきたいと思います。
不破伴作は実在の人物で豊臣秀次に仕えた忠臣として、太閤記にも登場します。18歳で秀次とともに亡くなった悲劇のヒーローとして人気があり多くの歌舞伎や戯作に登場しました。かなりの美少年であったと言われており、名古屋山三郎と高木馬之助を加えた3人は森家(茂林家三勇士)と謳われています。
茂理家三勇士が古寺で怪異に遭遇する、という設定は曲亭馬琴の『敵討鼎壮夫』(かたきうちかなえのますらお 1806年)に見られるようですが、本作に登場するこの妖怪の正体は未だに明らかにはなっていないそうです。
不気味な妖怪が不破のさす傘越しに顔を覗かせています。不破伴作は化物を目の当たりにしても全く動じることなく、逆に見栄を切るかのように妖怪を睨み付けています。堂々たる立ち姿がカッコ良いです。
よく見ると背景の壁や柱も不気味な生き物の様で、不気味さを醸し出しています。
<詞書>
『茂林家三勇士の一個にして強気驍勇壮者なり名古屋高木の二勇と約してともに古寺に怪異を試し変化の正軀をみとめしと云ふ』
約37cm *25cm
裏打、欠損、シミあり
売切