「和漢百物語」は日本と中国の妖怪話や奇譚を題材にした芳年初期の代表作です。
芳年27歳、慶応元年(1865)の発行で師・歌川国芳から継承した勇壮な武者絵の表現に加え、歴史画に学んだ独自のアプローチも盛り込まれています。のちに流行を博した「ちみどろ絵」へと繋がる残酷描写も見られ、芳年作品の醍醐味を味わえるシリーズとなっています。
「和漢百物語」は全26図からなりますが、今回買取させて頂いたのはそのうちの12図。数回に分けてそれぞれの作品を見ていきたいと思います。
「小田春永」とは織田信長のこと。実は江戸時代当時、織田信長、豊臣秀吉以降の武家を描くことは幕府によって禁止されていました。そのため本作のように名前を替え、暗に信長を表現するという方法がとられていました。
題材は妙国寺の「夜泣きの蘇鉄」。信長が妙国寺(大阪)に植えられていた大きな蘇轍を安土城に植え替えたところ、その蘇轍から毎夜呻き声が聞こえるようになったと言います。信長は激怒し部下に命じて蘇轍を切らせたところ、その蘇鉄からは鮮血が吹き出しました。これを見て信長は恐れおののき元の妙国寺に返したといわれています。
とはいえ本作で照らし出された蘇鉄を指差している信長はあまり恐れているようには見えませんが、芳年なりの解釈があるのでしょうか。まじまじと蘇轍の怪奇を見定めているようにも見えます。背中に龍があしらわれた羽織りを纏い、織田家の紋「織田木瓜」を連想させる紋様が入った袴を履いており豪華です。
<詞書>
『山閑人交来暗記 春永 古今猛将 其身僅 尾張半國従出て 敵を討砕(き) 足利家を助て 武名を輝す 後天下に将として 終に右大臣の高官を究む 或時京師妙国寺の蘇鉄を乞て 安土に移せしが 彼物奇怪の事ありしによりて 妙こく寺へかへして今猶彼処に存ぜりと云』
約37cm *25cm
裏打、欠損、シミあり
売り切れ