月岡芳年 和漢百物語(9)「真柴大領久吉公」浮世絵 買取させて頂きました 山梨市より

「和漢百物語」は日本と中国の妖怪話や奇譚を題材にした芳年初期の代表作です。

芳年27歳、慶応元年(1865)の発行で師・歌川国芳から継承した勇壮な武者絵の表現に加え、歴史画に学んだ独自のアプローチも盛り込まれています。のちに流行を博した「ちみどろ絵」へと繋がる残酷描写も見られ、芳年作品の醍醐味を味わえるシリーズとなっています。

「和漢百物語」は全26図からなりますが、今回買取させて頂いたのはそのうちの12図。数回に分けてそれぞれの作品を見ていきたいと思います。


真柴大領久吉公(ましばだいりょうひさよしこう)とは豊臣秀吉のこと。実は江戸時代、織田信長、豊臣秀吉以降の武家を描くことは幕府によって禁止されていました。そのため本作のように名前を替え、暗に秀吉を表現するという方法がとられていました。

本作は信長の意思を継いで、高野山攻めを考えていた秀吉が、高野山の視察に訪れたときの様子が描かれています。激しく打ち付ける豪雨と轟く雷鳴。秀吉の無礼な振る舞いは高野山の神の怒りに触れてしまい、恐れた秀吉は結局下山せざるを得なかったといいます。この逸話は『太閤記 巻十六高野詣之事』などに見ることができます。

雷雨の表現は迫力に満ちています。天の怒りを表すかのような真赤な雷光が画面を鋭角に切り裂き、地面に打ちつけられ跳ね返る雨粒の描写はこの風雨の激しさを物語っています。

<詞書>
『久吉公ハ其身卑賎より成發て極官に登庸なし剰遠く異朝までも勇威をしめし給ひしが 一年野山に登上して密戒を試んと大師の穴居を探しに忽震動雷電して暴風 盆をかたぶきのければさすがの将も駭恐怖麓へかへり給ひしとぞ』

浮かび上がる紋様「正面摺」

実は秀吉の纏っている黒衣には「正面摺」という技法が用いられています。浮世絵の装飾技法の一つで濃墨で摺られた箇所に文様の板木をあて、こすることで艶を出しています。光の角度によって紋様が見えたり見えなかったりするため、正面からの写真では分かりにくいです。こう言ったところも本作の魅力の一つとなっています。

約37cm *25cm
裏打、欠損、シミあり
販売中


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